こんにちは、下村です。
業種別の3日目です。
今日は、製造・建設の分野を書きます。
正直に言うと、この連載でいちばん「へえ!」と言われた仕事です。
図面から、数量を拾う。
これをAIにやらせた話です。
「拾い」って、ご存じでしょうか
ご縁があって、ある内装工事の会社さんとご一緒しています。
内装の見積を出すとき、その手前に必ずある作業があります。
図面を見て、必要な量を数える。
現場では「拾い」とか「積算」と呼ばれます。
たとえば、こういうものを数えます。
- 天井のクロス(壁紙)が、何メートル分
- 壁のクロスが、何メートル分
- ソフト巾木(壁の足元に貼る細い部材)が、何メートル
- 床が、何平米
これを、部屋ごとに、全部やります。
1つの案件で、何時間もかかります。
しかも、たいてい日中は現場に出ているので、夜にやるんですよね。
「図面を読ませたら一発ですね」…違います
ここ、いちばん誤解されるところなので、先に書きます。
図面をAIに放り込んで「はい数量です」とは、なりません。
最初にやったのは、まったく別のことでした。
その会社の計算ルールを、見つけることでした。
過去の見積から、逆算しました
やったのはこれです。
過去の図面と、そのときに出した見積を、両方並べる。
そして、「この図面から、どう計算したらこの数字になるのか」を突き止める。
言い方を変えると、その会社がずっと使ってきたやり方を、外から言葉にしたわけです。
出てきたルールは、驚くほどシンプルでした。
- 床(平米): 壁芯(かべしん)の寸法をかけ算する
- 天井のクロス(メートル): 床の面積 ÷ 0.8 を、0.5メートル単位で切り上げ
- 壁のクロス(メートル): (部屋の周りの長さ × 天井の高さ − 窓とドアの面積)÷ 0.8
- ソフト巾木(メートル): 部屋の周りの長さ、そのまま
はじめて見る方のために、2つだけ噛み砕きます。
「壁芯」 は、壁の厚みの真ん中で測った寸法のことです。部屋の内側で測った寸法(内法)ではありません。ここを間違えると、全部ずれます。
「÷ 0.8」 は、面積をロールの長さに直すためのものです。クロスはロールで買うので、平米のままでは注文できません。使える幅で割って、「何メートル分」にします。
つまり、必要な情報は3つだけでした。
床の面積、部屋の周りの長さ、窓とドアの大きさ。
これさえ図面から取れれば、あとは計算です。
3件の図面で、答え合わせをしました
ルールが見つかったので、検証しました。
過去の3件の物件について、この計算で数量を出して、実際に会社さんが出した見積と突き合わせる。
結果、天井のクロスは、部屋のグループ24か所すべてで、数字が一致しました。
床も巾木も、ほぼ合いました。
ここでようやく、「これは使えそうだ」となったわけです。
1か所だけ、合わないところがありました
面白かったのは、ここからです。
ある更衣室で、面積が7平米ほど食い違いました。
「AIが間違えたな」と思って、図面を見直しました。
図面のほうが、正しかったんです。
人が拾ったときに、1区画ぶん抜けていた。
金額にすると、数万円ぶん少なく見積もっていたことになります。
これ、誰も悪くないと思うんですよね。
夜に、何十部屋も拾っていたら、そりゃ1つくらい抜けます。
僕がこの仕事でいちばん手応えを感じたのは、時間が短くなったことよりも、こっちでした。
人の見落としを、機械が拾える。
できなかったこと(ここが本題です)
いいことばかり書くのは、フェアじゃないので。
この仕組みは、完璧ではありません。
正直に4つ書きます。
① 図面の読み取りは、いつでも成功するわけではありません
きれいなデータの図面なら、よく読めます。
でも、手書きの追記があったり、古いコピーでかすれていたりすると、精度は落ちます。
② 「どこまでが1部屋か」で、ずれます
いちばん残っている誤差がこれです。
廊下をどこまで含めるか、という解釈の問題。
ここは1割前後ずれることがあります。人が画面で見て直す前提です。
③ 図面に書いていない情報があります
天井の高さが分かる断面図は、物件によってはそもそも無いんです。
内部のドアも、寸法が書かれていないことが多い。
こういうものは、標準の寸法を仮置きして計算しています。 仮置きだと分かるように、根拠のメモも一緒に出しています。
④ 単価と金額は、人が決めます
これがいちばん大事です。
数量は計算で出ます。でも、いくらで出すかは計算ではありません。
相手との関係、時期、職人さんの手配、現場の条件。
ここは会社の判断です。AIは、口を出しません。
だから、こういう使い方になります
まとめると、こうです。
AIが拾って、人が画面で確認する。
ゼロから数えるのと、出てきたものを確認するのとでは、まったく別の作業です。
正直に書きますが、この仕事について「何時間が何分になった」という数字は、まだ出していません。
きちんと測っていないからです。
8月5日の記事でも、同じ理由で数字を書きませんでした。
ちゃんと測ったら、また書きます。
(ちなみに、明後日に出す費用の記事で、この「測る」こと自体を仕事として引き受けるプランの話をします)
製造業でも、形は同じです
内装の話をしてきましたが、これは業種の話というより、形の話だと思っています。
- 決まったルールがある
- 元になる資料(図面・仕様書・部品表)がある
- 数える作業が、量として多い
- 間違えると、お金に直結する
この4つが揃っているところは、だいたい同じやり方が効きます。
製造業なら、部品表の突き合わせ、仕様書の読み取り、検査記録の転記あたりでしょうか。
ルールが言葉にできるかどうかが、分かれ目です。
そして、そのルールは、たいていベテランさんの頭の中にあります。
先週書いた「書いていないけれど、みんなが知っていること」ですね。
AIを入れる仕事の半分は、それを引っぱり出す作業だったりします。
明日は、うちの本業の話です
明日は、ホームページ制作の会社にAIを入れるとどうなるか。
うちがまさにそれなので、いちばん正直に書けます。
いいところも、ダメだったところも、全部書きます。
よかったら、また覗いてください。